敷地に息づく自然の薬局
ナガルジュナ・アーユルヴェディック・センターを歩いていると、まるで生きた薬草図鑑の中にいるようです。食堂で毎日いただく薬膳料理や、治療に使われる薬の原料となる植物たちが、敷地のあちこちで静かに育っているのです。

今日は、そんな薬草園で出会った興味深い植物をご紹介します。アーユルヴェーダの長い歴史の中で人々の健康を支えてきた、まさに「緑の宝石」のような存在です。
マラバール・リーフ(Malabar Leaf / Cinnamomum Tamala / Tamala Patra)- 多彩な名前を持つ神聖な葉
薬草園を歩いていると、一つの植物に複数の名前が書かれた表示を見つけました。「Malabar Leaf」「Cinnamomum Tamala」「Tamala Patra」— 同じ植物を指しているのに、これほど多くの呼び名があります。

この葉を手に取ってみると、しっかりとした厚みがあり、表面には独特の光沢があります。香りは爽やかでありながら、シナモンのような甘い香りと、少しカンファー(樟脳)のような清涼感のある香りが混ざり合っています。一般的なベイリーフ(月桂樹の葉)とは明らかに違う、より大きく楕円形をした葉です。
「これはマラバール海岸地域でよく使われていた葉で、『マラバール・リーフ』と呼ばれるようになったんです」と、センターの薬草師が教えてくれました。学名は「Cinnamomum Tamala」で、確かにシナモンの仲間。樹皮からはシナモンに似たスパイスが取れるそうです。
そして「Tamala Patra」は、この植物のサンスクリット名。「チャラカ・サンヒタ」や「スシュルタ・サンヒタ」といった古代の医学書にも記載されている、アーユルヴェーダでは特に神聖な植物として扱われてきました。
アーユルヴェーダでは、呼吸器系の不調や消化不良の改善に使われることが多く、「心身のバランスを整える」「内なる火(アグニ)を整える」といった効果があるとされています。使節の食堂でも、ダルカレーやビリヤニなどの料理に使われていて、あの独特の深い香りの正体がこの葉だったのかと、ようやく謎が解けました。
一つの植物、多くの名前が語るもの
一つの植物にこれほど多くの名前があることに、最初は戸惑いました。しかし、よく考えてみると、それぞれの名前がこの植物の歴史や文化的背景を物語っているのだと気づきます。
「マラバール・リーフ」は地域名から、「Cinnamomum Tamala」は植物学的分類から、「Tamala Patra」は古代からの伝統的呼び名から生まれています。これらすべてが、この一枚の葉に込められた豊かな物語を表現しているのです。
毎朝の散歩で薬草園を歩きながら、「この小さな葉っぱ一枚に、何千年もの人々の経験と知識、そして様々な文化が込められているんだな」と思うと、なんだか背筋が伸びる思いがします。

現代の私たちは、つい薬やサプリメントに頼りがちですが、こうした自然の恵みとその背景にある豊かな文化との付き合い方を改めて見直すきっかけをもらった気がします。明日も、この緑豊かな薬草園を歩きながら、新しい発見を楽しみにしています。

ナガルジュナ・アーユルヴェディック・センターでの滞在は、まだまだ続きます。次回は、実際にこれらの薬草を使った調理体験についてお話しする予定です。お楽しみに!
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